"Time Tunnel" 「時間の穴」
Artist:
青山根子 Neko Aoyama
小関清人 Kiyoto Koseki
室井康希 Koki Muroi
カール・トゥイッカネン Karl Tuikkanen
矢口克信 Katsunobu Yaguchi
Curation:
荒木悠 Yu Araki
会場 Venue: 青山|目黒 AOYAMA|MEGURO
2-30-6 Kamimeguro, Meguro-ku, Tokyo
地図 Map: https://goo.gl/maps/HJn1ktLVq222
会期 Date: 2016.3.19[Sat.]-4.17[Sun.]
開場 Hours: 水-日曜 12:00-19:00
Wednesday - Sunday 12:00-19:00
aoyamameguro.com
Cooperation:
AOYAMA|MEGURO
ARTISTS' GUILD
Cafe Washingtown
Nordin Gallery
Itamuro Onsen Daikokuya
Miki Mochizuka + Araki Kōbō
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「時間の穴」
何年か前に、アイスランドの辺境で占い師に手相を見てもらったことがある。とても良く当たると地元でも評判の占い師だ。陽が昇らない十二月、その日も酷い吹雪だったが、彼女は約束の時間にキチンと現れた。私は手相どころか占い自体が初めてで、やや緊張しながらも、老眼鏡越しに丹念に掌を眺めている彼女の視線を伺いつつ、まだ入口すら見えぬ自分の制作のことをボンヤリ考えていた。
自分にとって制作とは一体何なんだろうか。直感を頼りに方角を決め、とにかく進み続けることの継続。囚人が長いトンネルを掘り続けているようなイメージで、いつも気が遠くなる。しかし脱獄に必要な計画性は、一夜では訪れない。看守の目を盗み、何年もかけて、食事用のスプーンでコツコツ穴を掘る。ある晩、囚人は穴の奥から微かな風を感じる。三日月の明かりが、突如漆黒のトンネル内を眩しいくらいに照らす。外だ。
「あなたは将来、今と近い領域で全く違うことをしているでしょう」
トンネルを抜けると看守、もとい占い師が不敵な笑みを浮かべながらそう告げた。
囚人が後ろを振り向くと、自分の影が、穴の奥へと伸びるように吸い込まれていった。
***
本展の会場のひとつである青山目黒では、振り返った時に特異なタイムスパンで制作活動を行なってきた五名の作家を紹介する。
NY在住の小関清人は、展示空間への一時的な介入において、意味の脱臼が生じさせるその向こう側を問いかけてくる。室井康希の作品には、彼自身が現在は作家活動を休止しており、今後いつ制作を再開するかわからない、という点で「作家活動」と呼ばれる時間的尺度そのものが既に内包されている。長年のリサーチをもとに展開するスウェーデン在住カール・トゥイッカネンは、消費社会の構造に潜むジェンダーの力学を、形態の変換を通して暴き出す。青山根子とは、かつて同じフロアに住んでいたことがあるのだが、一度も顔を合わせることなくお互い引っ越してしまったという奇妙な関係だ。水戸を拠点に活動する矢口克信は、例えば年号が変わったときに抱く違和感を連続再生するかの如く、もう無くなってしまった風景の記憶を現代に映し出してくれる。どの作家からも、骨太なのに軽やかで、また繊細にして大胆に、物事と向き合っていく柔軟な姿勢を感じとることができるだろう。
ここで「作品」と呼べるのは、掘ったトンネルのことなのか、もはや使い物にならなくなったスプーンなのか、或いは脱走できた時の爽快感なのだろうか。全てがそうであると同時に、そのいずれでもない気がする。ようやく自分のものになった表現媒体の裏では、パラレルに潜んだ別の可能性が、密かに脱獄の時機を図っている。
荒木悠
AOYAMA|MEGURO [2-30-6 Kamimeguro, Meguro-ku, Tokyo]